家族になりたい12

・外はすっかり日が沈んだ後

・煙突がいくつも並ぶ大きな工場

・その工場の一室。厳重に鍵がかけられ、扉にはゴツい体型の見張り番が立っている

・部屋全体にスチール製のテーブルが並べられていて、その上には、拳銃やナイフ、ロケットランチャーまでありとあらゆる武器が大量に置かれていた

男「本当にここまで必要なんですか?」

・ゴーグルと軍手をつけたスキンヘッドの男が問いかける

・問いかけた先には、森の中に居た時と同じ全身黒ずくめの格好で、ライフルを手に取り吟味している薫の姿があった

・薫の背後には麗もいる

薫「ああ」

・薫はライフルを構えながら低い声で短く答えた

男「ま・・・代金さえ支払ってくれれば結構ですがねえ」

・男は左手を腰に当てながら、右の掌を武器の上で泳がせた

薫「ホテルの防犯室にも武器を増やす。スペースを作れ」

麗「はい」

男「ホテルの中で戦争でもおっ始めるつもりですか?」

薫「念の為だ。何をしてくるか分からん・・・あの男ならな」

・ライフルを構えスコープを覗き込む薫の目が鋭く光った

・その時ピピピ・・・とスマホの着信音が鳴り響く

・ライフルを男に渡し、コートのポケットからスマホを取り出し通話に応じる薫

薫「ああ。なんだ・・・・・・はあ〜。譲が賭博場に?」

・額に軽く手を当て大きくため息をつく薫

・その言葉を聞き、麗は両の手を腰に当て天井を仰いだ

薫「何・・・っ?奴が・・・」

・しかし途端薫は顔色を変え緊迫した様子になる

・麗と男は、何事かと薫の方を食い入るように見つめた

薫「いや、何をするかわからん。今から戻るから俺が行くまで決して刺激するな。ああ。奴から目を離すなよ」

麗「どうしたんですか?」

・薫が通話を切ってすぐに麗が問いかけた

・薫の顔からはいつもの冷淡さが消え、代わりに憎悪に満ちた表情が現れた

薫「猪瀬・・・!!」
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譲「えっ。いのっちさん、薫と待ち合わせてるんですか」

いのっち「そうだよ〜」

・賭博上のソファで座って話す譲といのっち

・縮こまっている譲に対し、いのっちはソファの背もたれに腕を回してゆったりとしている

・心なしか譲と距離が近い

・いのっちの言葉に反応して譲が彼の顔をじっと見ながら興味津々で聞く

譲「薫とはどういう関係なんですか?」

いのっち「はは。なんていーうんだろ。まあ、あいつのガキの頃からよーく知ってるよ。大きくなるまで俺がずっと面倒を見てたんだ」

譲「へ、へえー!そんな親しい間柄だったんですね‼︎(薫の小さい頃・・・気になる)」

・薫の小さい頃から知っていると聞いて、譲は目を輝かせていのっちを見た

譲「あれ?でも薫、今日は夜まで予定があるって・・・」

・怪訝そうに目を泳がせて思考を巡らせる譲

いのっち「いーのいーの。そのうち来るから。ま、気長に待ってよーぜ」

譲「?」

・そこで深く考えを巡らせるほど残念ながら譲は頭が良くなかった

いのっち「譲ちゃんの方は薫の・・・セフレかな?」

譲「っ!!」

・突然の追求にバッと頬を上気させる譲

いのっち「ハハハ。初な反応するねえ。わかりやすっ」

・赤くなって俯く譲を見て愉快そうに笑ういのっち

いのっち「隠さなくてもいいよ。言っただろ?アイツの事はよく知ってるって。いつも君みたいな可愛い男の子を捕まえてくるんだよ」

・へらへらと笑いながらいのっちは続けた

いのっち「そんでもって、骨の髄まで虜にしといて、ものの数週間でポイ。罪だよね〜」

譲「・・・・・・」

・いのっちの言葉に、譲の表情が若干暗くなり、俯き加減になる

いのっち「おっと、譲ちゃんは違う、かな?」

・そんな譲を見て、揶揄うような調子で問いかけるいのっち

譲「・・・いや、それは覚悟してます。でも・・・いいんです」

・譲は落ち込んだ様子だが、冷静に答えた

いのっち「ヒュー。健気だねえ。益々気に入っちゃったなあ」

・いのっちは口の端を上げてニヤリと笑った。しかし何故か目の奥は笑っていない

いのっち「ねえ、もしアイツに捨てられたら、俺のモノになりなよ」

譲「え」

・突然そう切り出すいのっちに驚き、俯かせていた顔を上げる譲

・すると触れそうな程の距離までいのっちが顔を近づけてきた

いのっち「俺も好きなんだよ」

譲「ちょ(近い・・・っ)」

・口を譲の耳元に近づけて囁くいのっち

いのっち「薫の使ったお古を、ぐっちゃぐちゃに壊して捨てるのがね」

譲「・・・!?」

・異常な発言を聞いて固まる譲を他所に、ポケットからおもむろに何かのケースを取り出し、そこから錠剤数粒取り出すいのっち

・口に放り込むとボリボリと噛み砕き、嚥下したと思うと、瞬間ブルブルと震え出す

いのっち「フシューーーッ」

・大きく息を吐き出し、震えが止まる。だが血走った目をして、表情は完全にキマッたそれだった

・譲は目の前で起きている事が受け入れられず、硬直しながらダラダラと脂汗を垂らした

薫「譲から離れろ、猪瀬」

・その時、大勢の従業員を携えて薫が2人の前に現れた

譲「薫・・・」

・薫はいつもの余裕のある雰囲気とは違い、殺気だった様子だ

猪瀬「会いたかったぜハニーーー♬待ちくたびれたぜえええい」

・ふざけた調子で言いながら、いのっちが仮面を外す。ラリラリしながらも精悍な顔立ちが現れた

猪瀬「俺の本名は猪瀬豊(イノセユタカ)でちゅー♡覚えておいてね譲ちゃん♫」

・本名は猪瀬と言うらしい

・賭博場の客も異変に気付き、殺伐とした空気になる

麗「譲さん、こっちに」

・腰を抜かした譲の腕を麗が掴み立たせ、猪瀬から引き離す

譲「麗さああん、ごめんなさああい」

麗「迷い込んだんでしょ、ったく」

・号泣する譲に対し仕方ないと言った様子の麗

・薫は険しい表情でソファに座る猪瀬を見下ろし、そんな彼を猪瀬はニヤニヤと見ていた

薫「しつこいぞ、お前。こんな所にまで入り込んで」

・まるで汚物でも見るような薫の目。明確な敵意を込めた声で猪瀬に言う

猪瀬「だってよおおー。何回も会おうとしたのに全然まともに取り合ってくれねーだろー?そりゃー寂しくてこんな所まで入り込むさー」

・猪瀬は変わらずへらへらしながら、首をコキコキと左右に振って鳴らした

譲「あの人は薫の小さい頃から面倒を見てたと言ってたけど・・・」

・2人の間に漂う異様な空気に戸惑う譲

麗「今は違うが、かつて紫川さんは猪瀬と同じ組織に居たんだ。裏社会ではそこそこ力を持った厄介なやつさ。性懲りも無く事あるごとにうちにちょっかいを出してきやがる」

・麗もまた表情に嫌悪感を浮かべながら言った

麗「紫川さんが目的なんだ」

・今にもお互いが掴みかかりそうな雰囲気で向かい合う薫と猪瀬を不安げに見つめる譲

猪瀬「その、何もかも1人で築き上げたみたいな、自分が一番強いみたいな顔がむかつくんだよ、なあ?」

・薫並びに殺気立った複数の従業員に取り囲まれても、顔色ひとつ変えない猪瀬

・目を細め、挑発するように薫に言葉を投げかける

薫「そんなつもりはない」

・薫はなおも警戒した様子で、低い声で静かに答えた

猪瀬「誰のおかげでここまで来れたと思ってやがる、ああん?」

・途端猪瀬はスッと立ち上がり、ユラリと薫に近づいた

麗「紫川さん!」

薫「下がっていろ」

・猪瀬につかみかかろうとする麗を静かに制止する薫

猪瀬「散々可愛がってやったのに・・・ある日突然居なくなったと思ったら許可なく1人で好き勝手やり始めやがって」

薫「独立しただけだ。お前にとかく言われる筋合いなどない」

・ジリジリと寄ってくる猪瀬に、冷静さを保ちながら淡々と返す薫

・しかし先ほどよりも緊張して強ばっているのがわかる

猪瀬「そうかよそうかよ。確かにいつまでも弟分の自立に口出しする兄貴はダセエよなあ。やめだやめ。今までしつこく付き纏って悪かったよ。うんうん。立派になって喜ばしいことだ」

・途端先ほどのように凄むのを辞め、穏やかな調子で話し出す猪瀬

・うんうんと1人で頷きながら感慨深いといった様子だ

猪瀬「ただなあ」

・猪瀬は続けた

猪瀬「うちの下っ端潰したの、おめえだろ」

・そう言った猪瀬の顔からは表情が消え、恐ろしく冷たい目で薫を見据えていた

・先ほどに増して緊迫した空気が漂う

・麗は猪瀬の言葉にごくりと唾を飲み込んだ

薫「・・・・・なんのことだ?」

・未だ表情を変えずに冷静に返す薫

猪瀬「ヤキが回ったな、薫。多少のおいたは見逃すように計ってきたが、それもしまいだ。俺を敵に回した。これがどういう意味かわかってんのか?」

薫「・・・・・・」

猪瀬「お前の持っている全て・・・人間も、このホテルも、タマも、ぶち壊してくれって言ってんのとおんなじなんだよ。俺にそれをやり通すだけの力があるのは重々承知だろう」

・そう言う猪瀬からは先ほどのようなふざけた調子は一切感じられず、賭博場が凍りつくほどの冷徹さが滲み出ていた

猪瀬「ただ俺は優しいからな。お前の態度次第で許してやらなくもない」

・そう言いながら先ほどよりも薫との距離を近づける猪瀬

猪瀬「いつか泣きながら俺の足元に跪いて、おねだりした時みたいにすればなあ」

・そう言うと猪瀬はいきなり薫の髪を掴みグッと引き寄せると強引にキスをした

薫「っ」

・その光景に目を見開く譲

・猪瀬をバっと全力で猪瀬を跳ね除ける薫

猪瀬「おおっと」

麗「てめえっ」

・今度こそ本気で掴みかかろうと麗が紫川の前に出た

猪瀬「よーく考えるんだな。間違った回答を出した場合は、1000%後悔させてやる・・・ん?」

・気づくと譲が顔を俯かせながら猪瀬の眼前に立っていた

譲「薫に・・・」

・聞いたこともないような低い声でゆっくりと口を開く譲

譲「なれなれしく触ってんじゃねーーーーーっ!!!!」

・譲の叫び声と共にドゴォ・・・鈍い音が辺りに鳴り響いた

・譲が渾身の力で猪瀬の金的を蹴り上げたのだった

猪瀬「ぐはあああああああああああ」

・股間を抑え床に崩れ落ちる猪瀬。

・そのまま蹲りピクピクと痙攣し始めた

・ざわっと薫や従業員達が騒然とする

譲「今この場で一万%後悔させてやるっっ‼︎」

・その場の全員を圧倒させるほどの気迫で激昂する譲

薫「やめろ譲、もういいっ」

・怒りがおさまらず追撃しようとする譲を押さえつける薫

譲「キーーーっ」

・拳を握りながらバタバタを両腕を動かしている

猪瀬「くっ・・・そおおおお・・・10万%後悔させてやるからなっっ」

・やっとのことで立ち上がる猪瀬。震えながら薫達に指をさして吠える

譲「うっせえ!!100万倍返しにするぞ!!」

猪瀬「俺の戦闘力は530万だからな!!」

・尚も激昂する譲に背を向け、猪瀬はふらふらになりゲームボードにぶつかりながら出口に向けて逃亡した

・賭博場にいる全員が、猪瀬が去っていった方を見つめながら、ポカーンとした

薫「お前・・・ちょっとは相手を考えろ」

・困惑した様子の薫。やっとの事で言葉を発した

譲「だって・・・!!ムカつく!!」

薫「わかったから落ち着けって・・・」

・暴れたりない様子の譲を引き続き制するが・・

薫「くく・・・はははは」

・途中から声を上げて笑い出す薫

・それをみんなが怪訝な顔で見ている

薫「ヤツのあんな無様な姿を見たのは始めてだ。実に愉快だ」

・未だ笑いが止まらない様子の薫

麗「(紫川さんってこんな風に笑うんだ)」

・麗はそれを意外そうな顔で見た

薫「さあ、ヤバいやつを敵に回してしまったぞ。どうするお前ら」

・ようやく笑いが収まり、薫は従業員一同の方へ振り向くと言った

麗「元から奴にへり下るくらいなら死んだほうがマシだと思ってました」

従業員「戦うだけの余力はありますよ。準備していますから」

・その表情を見る限り、他の従業員も同じ志だということがハッキリとわかる

薫「だとさ。意見が割れなくてよかったな、譲」

譲「・・・・」

・その顔に笑みを浮かべながら、冗談ぽく譲に言う薫

・譲は薫のスッキリした顔をキョトンとした顔で見た